男のものさし

男の頭には 母のものさしがある
漬物 てんぷら 味噌汁の味付けにも
その器にも 盛り付けにも
いつも母のものさしが
目を光らしている

男のものさしは 母がつくる
ものの見方 考え方 生き方 死に方
すべて 母のものさしで計っている
そんな時 男はいつも 寡黙となる

お母ちゃん お母さん おふくろ 母と
呼び方は変わっても 
ものさしは変わらない
母のものさしは 羊水の時から 
生き続け
男はいつか 母の許に還る
母は男の文化の発祥地

1991.6

とんぼ

君は遠い昔から 大きな目で 
平和と繁栄を願いながら
天空を飛び廻ってきた
君が縄文(僕は蛇文と言いたいが)人
と会った時
君は彼らの象徴として崇められた
縄文晩期には 遮光器土偶となって
君は彼らの神となった

縄文人は弥生人に征服されてが 
君は縄文人の心と共に
伊邪那岐命と伊邪那岐命から生まれた
新しい国大倭豊秋津島の神
秋津(トンボ)として 生まれかわった

大和の国の美しさを 君の大きい目は
天に映しだしていた 万葉の歌人たちも
君を大和の国の枕詞として
崇め 幾多の歌を詠った

時は流れ 君は強き者の化身となった
戦国の武将は君を勝虫と呼び
兜や陣羽織に
君の姿を写し勇壮に戦った

先の大戦にも 
父や兄は戦闘機を赤とんぼと命名し
大和の国の象徴として 世界を相手に
戦った、が・・・・敗れ

君は驕れる人々の
猛省と大和国の復興を希い
残れる者に 
赤とんぼの歌を口ずさませ
美しき大和国の再興に奮闘した

しかし 
次第に私たちは唯物的な豊かさを求め
開発 開発という掛け声と共に
経済大国としてのし上り
君の棲む 清冽な水辺 澄んだ空気 
緑の山々は乾いた街となってしまった

いま私たちは
君と暮らす世を身近なところから
築いて行かなければならない
そして 多少不便で 
多少貧しいけれど
心豊かに暮らせる世を創ろう
君のためにも・・・・・・・・

1991.6

ビールは陶器で飲むのがうまい
多少荒目の陶土の
泡がやわらかくて こまかくて
ソフトクリームのように
あまくて口の中で蕩け
ほろ苦さが口に残り
手に冷たき潤いが残る
そんなビアマグで 
心ゆくまで飲んでみたい

酒はぐい呑みで飲むのがうまい多少厚手で大きめの
温まりにくくて さめにくくて
手の中で遊ばせながら
昨日のこと 明日のこと 
身近な自然のこと
遠い宇宙のことを思いながら
飲むのがいい



昔 制空権を持ち 空を飛び廻っていた蛇が
地上をも制覇しようと 地に降り 藪 沼 野を支配した
地に沈んでは世の様を思い 地上ではトグロを巻き
未来の様を慮り 木に登っては万物の生活を見渡した
この世のものとは思えない 美しい紋様を四方に
輝かせながら・・・・・

人は蛇のいとなみに会い その生命力に感動し
いとなみを写し それを神に捧げ
「しめなわ」と呼んだ

蛇の世界に侵入した人を毒で殺し 病む人には薬で癒した
人は蛇を医術の神と崇め アスクレピオスと呼んだ

蛇は悪の侵入を防ぐため 人家にも住むようになった
貯え物を食い荒らす悪を 成敗するために
人は蛇を富の神と崇め マーキュリーと呼んだ

縄文人は蛇を神の化身と信じ 神に捧げる器に
蛇の紋様を写した (だから私は蛇文土器と言いたい)
紋様を写す道具として縄を用い
現代人はそれを縄文土器と呼んだ

縄文人を征服した弥生人は 縄文人の神を滅ぼした
出雲の地に住む縄文神「やまたのおろち」を
しかしオロチの尾から出た剣を 弥生人が佩びた時
弥生人は縄文の心をも佩びたのだ
だから この剣を佩びて 縄文人の成敗に出陣した
「やまとたけるのみこと」は長い戦いのうちに
縄文の心を自らの心とし ついには大和の帰ることなく
白鳥となり天にむかった

現代人は蛇を醜いものの 総称として毛嫌いする
弱いもの 醜いものが 滅ぼされていく現在
一瞬でも私たちが 彼らに歴史のあることを
家族のあることを思い 感謝の気持ちを持ったなら
彼らはどんなにか喜ぶであろう


器の心

酒器 食器 花器
器は器だけでは謙虚であり
存在感がうすい
器は常に従であり
主を活かす道具である
酒を 食べ物を 花を
盛ることで
器は生命を得る
これが器の心遣いである

あざみ

やわらかい朝日のなかで 君は朝露で化粧し
蜂の来るのを待っている
その姿は恋する乙女であり 君の一番美しい時である

初夏のひざしのなかで 君は忍耐強く
日陰のくるのを待っている
その姿は修行僧であり 君の充電の時である

月の光のなかで 君は目をとじ
蜂の飛び交う 朝を待っている
その姿は石仏であり 
君の足が大地に 張っている時である

やがて
君は顔を紫から灰色に変え 子供たちに大きな羽をつけ
風の吹く日を待っている
子供たちは風に乗り 自由に空を飛びまわり
遊び疲れた子供たちは 春まで大地で眠りにつく


たわごと  part1

森は森に還る

キノコは森に街を創った
時と共にキノコは森から姿を消した
そして森は森に還った

ヒトは森に街を創った
時と共にヒトは森から消え
街は廃墟となった
そして何時しか廃墟は草原となり
林となり やがて森となった

時と共に
森は森に還る
山梨県長坂町酒呑場遺跡
青森県五戸町大窪遺跡
漢字遊び(陶)
「陶潜」を真似て 「陶写」のために 「陶芸」を始めた
「陶土」を掘り 「陶鈞」で 「陶鋳」し 「陶窯」で焼き上げる
そして
温もりの残る「陶器」で 美酒を酌み「陶酔」し
いつしか「陶枕」で 「陶夢」の世界へ
「陶鬱」はどこかに消え 「陶然」たる心となる
「陶芸」は「薫陶」であり 人を「陶遂」し「陶化」する
  




写真は撮り直したい。雰囲気のいい写真教えて!
イメージは天を突き刺すような杉に巻いた「しめなわ」
落ち葉の中から裸の欅の大木、朱に萌えた唐松の新緑

落葉樹

秋津島には 落葉樹が似合う

春には カラマツの新緑が
一面 山を紅に染め
里の欅の新緑は 大きな傘を広げ
母親のような優しさで
大地の生き物たちに
適度な光と水を与える

秋には 赤 黄 山吹色に
森を染め 生き物たちに
冬の近いことを告げ
やがて 自分の肌着まで脱ぎ捨てて
温かい布団を
大地の生き物たちに与える

裸となった樹々は
青空に向かって 凛然と立ち
春の来るまで
母親のような優しい目差しで
生き物たちを見守っている

縄文の昔から
樹々は地勢 気候 風土を
生き物たちに教えてきた
それなのに
文明の進歩という波の中で
人は 樹の知恵を
忘れ去ろうとしている
古木に「しめなわ」を廻し
神と崇め 教えを乞うた
縄文人の心を・・・

科学は 文明は 文化は
大地から 樹々から 生き物たちから
学んだことを 思い起こそう
そして
これから生まれてくる
子供たちのため
縄文人の心に 一歩一歩
近づく努力をしよう